2015年の夏以降に発売されるタブレットには、CPU(SoC)としてAtom x7/x5が搭載されるものと思われます。最近ではマイクロソフトのSurface 3で採用されたことでも話題を呼びました。実際のところ、この新しいCPUがどれくらいの性能を持っているのか気になるところ。そこで今回はAtom x7-Z8700について、これまで使われてきたAtom Z3700シリーズとの違いやベンチマーク結果などを交えながら紹介します。
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「Atom」は低消費電力CPUのブランド
Atom x7-Z8700について解説する前に、まずはAtomシリーズ全般についておさらいしておきましょう。
「Atom」というとタブレット向けのCPUというイメージがありますが、正確には消費電力を抑えた低価格なCPUのブランドです。名前は異なりますがパソコン向けのAtomシリーズ(Celeron、Pentium)もあるほか、サーバー用のAtomもリリースされています。インテル製CPUのなかでは、もっとも安くて省電力性能が高い代わりに性能面では控えめという位置付けです。
インテル製CPUの違い(性能の高い順) | ||||
シリーズ名 | 読み方 | 特徴 | 主な用途 | 搭載パソコンの価格帯 |
---|---|---|---|---|
Xeon | ジーオン | 先端技術をふんだんに使った超高性能CPU | 企業向けサーバー、CG制作 | 15万円~ |
Core i7 | コアアイセブン | かなり高性能な上級CPUで、処理速度が速い。2~8コア | 個人向け高性能(ハイエンド)パソコン、業務用パソコン | 8~50万円 |
Core i5 | コアアイファイブ | 中程度の性能と言われるが、処理速度は速い。2~4コア | 個人向けパソコンの標準モデル | 6~30万円 |
Core i3 | コアアイスリー | Core i5よりは劣るものの、十分実用的な性能。2コア | 廉価版モデル | 5~20万円 |
Core M | コアエム | 性能はCore i3よりやや低いものの、省電力性能が高い。2コア | 2-in-1パソコン、タブレット | 10~20万円 |
Pentium | ペンティアム | 性能をさらに落とした廉価版CPU。2コア | 低価格パソコン | 7~10万円 |
Celeron | セレロン | 計算性能よりも省電力性能を重視した格安なCPU。2~4コア | 格安パソコン、一体型PC | 3~13万円 |
Atom | アトム | 省電力性能に特化したCPU。2~4コア | タブレット、小型パソコン、スマートフォン、サーバー機器 | 1.5~10万円 |
CPUの基本構造は「アーキテクチャ(マイクロアーキテクチャ)」と呼ばれ、リリース時期によって種類が異なります。2013年秋から最近までにリリースされたAtomでは「Silvermont(シルバーモント)」と呼ばれるアーキテクチャが使われてきました。しかし、2015年春からリリースされたAtomでは「Airmont(エアモント)」と呼ばれるアーキテクチャに入れ替わっています。
Atomで使われているアーキテクチャの移り変わり | ||||
世代 | 名称 | 読み方 | プロセスルール | 発表年 |
---|---|---|---|---|
第4世代 | Airmont | エアモント | 14nm | 2015年3月 |
第3世代 | Silvermont | シルバーモント | 22nm | 2013年9月 |
第2世代 | Saltwell | ソルトウェル | 32nm | 2011年9月 |
第1世代 | Bonnell | ボンネル | 45nm | 2008年3月 |
さらに各世代のAtomは、用途に応じて異なる開発コードが付けられています。最近使われている主な開発コードとその使われ方は、以下の表のとおりです。
最近の開発コードの種類 | ||
アーキテクチャ | 開発コード | 用途 |
---|---|---|
Silvermont | Bay Trail-D/Bay Trail-M | パソコン |
Bay Trail-T | タブレット | |
SoFIA | スマートフォン | |
Airmont | Braswell | パソコン |
Cherry Trail | タブレット | |
Morganfield | スマートフォン |
今回取り上げるAtom x7-Z8700は、Airmont世代のCherry Trailに属するタブレット向けのCPUです。ちょっとややこしいですが、以上のことを覚えておくと各CPUの世代や位置付けがイメージできるようなり、さまざまなレビュー記事を理解できるようになるはずです。
Cherry TrailとBay Trailの違いはグラフィックス性能にあり!
では新しいCherry TrailのAtomは、これまで使われてきたBay TrailのAtomと比べてどこが変わっているのでしょうか。インテルによると、グラフィックス性能が大きく向上しているのが最大の改善点ということです。
Bay TrailのCPUコアは22nmのプロセスルール(回路の配線幅、製造プロセスとも呼ばれる)で製造されていましたが、Cherry Trailでは14nmで製造されています。回路の線幅が狭くなったぶんCPU全体の空きスペースが増えたわけですが、そこに「実行ユニット(EU)」と呼ばれるグラフィックス処理のための部品が追加されています。Cherry TrailのAtom x7-Z8700とBay Trailの最上位CPUであるAtom Z3795、8型タブレットでよく使われるAtom Z3735Fのスペックを比べてみると、動作周波数やSDP(消費電力量の目安)などはそれほど変わっていませんが、実行ユニットの数がCherry Trailでは4倍の16になっていることがわかります。
Cherry TrailとBay Trailの違い | |||
Atom x7-Z8700 | Atom Z3795 | Atom Z3735F | |
---|---|---|---|
開発コード | Cherry Trail | Bay Trail | |
アーキテクチャ | Airmont | Silvermont | |
コア数/スレッド数 | 4/4 | ||
動作周波数 | 1.6GHz | 1.59GHz | 1.33GHz |
バースト周波数 | 2.4GHz | 2.39GHz | 1.83GHz |
SDP | 2W | 2W | 2.2W |
グラフィックス | Intel HD Graphics(CPU内蔵、第8世代) | Intel HD Graphics(CPU内蔵、第7世代) | |
グラフィックス動作周波数 | 200MHz | 311MHz | |
グラフィックス最大動作周波数 | 600MHz | 778MHz | 646MHz |
実行ユニット数 | 16 | 4 | |
DirectX | 11.1 | 11.0 | |
OpenGL | 4.3 | 3.0 |
ちなみにインテルはモバイル向けCPUの製品展開として、Core MシリーズとAtom x7/x5/x3シリーズを軸としていくことを公表しています。Atom x3はスマートフォン向けのCPUで、Silvermont世代の開発コード「SoFIA」の製品です。いまはまだ数は多くありませんが、今後これらを搭載するモデルが増えてくるでしょう。
Atom x7-Z8700のベンチマーク結果は?
続いて、Atom x7-Z8700のベンチマーク結果を見てみましょう。さまざまなCPUのベンチマーク結果を掲載している「PassMark CPU Benchmarks」によると、Atom x7-Z8700のスコアは「1725」とのことでした。現段階でAtom x7-Z8700を搭載しているのはSurface 3だけですので、機種そのもののベンチマーク結果だと見ていいでしょう。Bay TrailのAtomシリーズよりも高いスコアが出ています。
パソコンで使われているCPUと比べると、格安パソコン向けのCeleronよりは高い結果となりました。ただしSurface Pro 3で使われているCore i3-4020Y、Core i5-4300U、Core i7-4650Uと比べると格段に落ちます。Core iシリーズより性能が低いのは仕方がないでしょう。むしろ、Celeron Uシリーズを上回っているのは驚きです。
CPU性能の面では、Bay TrailのAtom Z3795とあまり変わらない結果となりました。しかし内蔵グラフィックスの3D性能は、旧世代のAtomに比べて大きな差が付いています。「3DMark 11」のスコアでは、Core i3-4020Yに近い結果です。
ただしグラフィックス性能が向上したと言っても、 3Dゲームを快適に遊べるようになったわけではありません。あくまでも、Windows 8.1の描画処理をサポートする程度です。動画再生機能も強化されているので、旧世代のAtomよりは軽くなるでしょう。しかしながら、CPUの総合性能的には「劇的にパワーアップした!」とは言えない範囲だと思います。
コストパフォーマンスではまだBay Trailのほうが有利?
筆者の個人的な感想では、新しいAtom x7-Z8700に「これはスゴイ!」と思うほどの魅力を感じませんでした。特に処理能力面ではBay Trail世代のAtom Z3795とそれほど変わりませんので、あえてCPUで選ぶこともないかなと思っています。いまはBay Trail世代のAtomを採用したタブレットのほうが安く販売されていますので、そちらのほうがお得かもしれません。もしくは、次のラインナップが追加されるまで様子見といったところでしょうか。
実のところ筆者はSurface 3のベンチマークをガッツリと行なっているのですが、他の媒体向けの記事として執筆したため、ここでは詳細を公開できません。ちょっとだけバラしてしまうと、今回紹介したベンチマークよりも少し良かったかもねー、とだけ言っておきます。
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