一部のノートPCでは、グラフィックス機能として外付けGPU(ディスクリートGPU、またはdGPU)の「NVIDIA GeForce 930M(以下、930M)」を搭載しています。今回はこのGPUが実際にどれくらいの性能を持っているのか、さらにゲームで活用できるのかといった点について解説します。
GeForce 930Mの概要について
NVIDIAのGeForceシリーズには、豊富なラインナップが用意されています。最近はデスクトップPC向けにGTX 1080やGTX 1070などの、いわゆる「1000シリーズ」がリリースされましたが、ノートPC向けは(まだ)900シリーズが現役。このシリーズを搭載したノートPCが、数多く販売されています(2016年6月9日時点)。
ノートPC向けGeForce 900シリーズのラインナップ
- GeForce GTX 980 for Laptops
- GeForce GTX 970M
- GeForce GTX 965M
- GeForce GTX 960M
- GeForce GTX 950M
- GeForce 940MX
- GeForce 940M
- GeForce 930MX
- GeForce 930M
- GeForce 920MX
- GeForce 920M
- GeForce 910M
「GTX」はゲーム用の高性能なGPU
GPU名の末尾にある「M」は「Mobile(モバイル)」の略で、ノートPC向けであることを表わします。たとえば「GeForce GTX 960」はデスクトップPC向けで「GeForce GTX 960M」はノートPC向けといった違いがあり、グラフィックス性能はまったく異なります。
またゲーム向けのGPUには、製品名に「GTX」という文字が含まれています。含まれていないGPUでもゲームをプレーできますが、GTXを含んだGPUのほうがより快適に楽しめるというわけです。
ゲーム以外でもGPUは役立つ
ではゲーム用ではないGPUになんの意味があるかというと、主にコンテンツの視聴や制作に関係してきます。たとえば動画を視聴する際、動画再生支援機能を搭載したGPUがあると、CPUにかかる負荷が軽減されるわけです。
またGPUに対応するクリエイティブ系ソフトでの処理が高速化されたり、OpenCLやCUDAと呼ばれる技術に対応するソフトが速く動きます。このようにゲーム以外でも外付けGPUを搭載するメリットはあるのです。
930Mは普段の作業を軽くしたい人向け
WordやExcelなどを使った文書作成、あるいはネットを使った情報収集などの作業に、外付けGPUは必要ありません。今回取り上げる930Mは、動画を視聴しながら別の作業を行なう人や、仕事で画像や動画を扱う人、趣味で写真や動画などを編集/加工する人向けです。ゲーム性能はそれほど高くはありませんが、CPU内蔵のグラフィックス機能(iGPU)よりはパワーがあるので、ゲームによっては快適に楽しめるでしょう。
GeForce 930Mのベンチマーク結果
続いては、930Mのベンチマーク結果を紹介します。なおテスト結果はさまざまな機種で行なったもので、それぞれパーツ構成や本体サイズが異なります。あくまでも参考程度に捉えてください。
Intel HD Graphics 520との性能差
まずは、CPU内蔵のグラフィックス機能と性能を比較してみましょう。ノートPCでよく使われるCPUのグラフィックス機能として、Skylake世代のIntel HD Graphics 520/530と、Braswell世代のIntel HD Graphics 5500について、3D性能のベンチマーク結果を比べてみました。
確かに930Mのほうがスコアが高くそのぶん高性能だと言えますが、それほど大きな差が付いているわけではありません。なおベンチマーク結果はテストのタイミングや本体の状態などによって大きく変わることがあります。あらかじめご了承ください。
GeForceシリーズとの性能差
続いては、同じGeForceシリーズのほかのGPUと比較してみます。
930Mは900シリーズのなかで、かなり低いランクであることがわかります。海外の大作ゲームをプレーするなら、せめてGTX970Mぐらいの性能は欲しいところです。
ゲーム用で高性能なGTXシリーズと比べるのは少々酷な話ですが、930Mにゲームの快適さを求めるのはやめておいたほうがいいでしょう。3D描画性能については、CPU内蔵のグラフィックス機能よりマシ程度に考えたほうがいいかもしれません。
ゲーム系ベンチマークの結果をチェック
前述のとおり930Mは、ゲームを快適に楽しむためのGPUではありません。しかしまったくゲームができないというわけではなく、処理の軽いブラウザーゲームや2D描画主体のゲームなら問題なくプレーできます。さらに国内で人気のオンラインゲームでも、画質や解像度を変えることで、ある程度プレー可能です。そこで、930Mによるゲーム系ベンチマークの結果を見てみましょう。
なお今回はThinkPad T460sのベンチマーク結果を使っています。主な仕様は、下記の表のとおりです。利用するPCによって結果が大きく変わる可能性がありますので、あらかじめご了承ください。
試用機の主なスペック | |
OS | Windows 10 Home 64ビット |
---|---|
CPU | Core i7-6600U(2.60GHz) |
メモリー | 8GB |
グラフィックス | GeForce 930M(2GB) |
ストレージ | 256GB SSD(NVMe) |
ディスプレイ | 14型、2,560×1,440ドット |
ドラクエ10ベンチマーク結果
ドラクエ10ベンチでは意外にも、フルHDの標準画質で「快適」という評価となりました。最高画質では「普通」という評価が出ています。ただしこのベンチマークはCPU性能が強く反映される(CPU依存が高い)ので、下位CPUを使っているPCではスコアが低くなる可能性があります。
FF14ベンチマーク結果
FF14ベンチマーク(DirectX 9)結果 | ||
1280×720ドット | 1920×1080ドット | |
---|---|---|
標準品質(ノートPC) | 7149(非常に快適) | 4095(快適) |
高品質(ノートPC) | 3930(快適) | 2191(普通) |
最高品質 | 2874(やや快適) | 1609(設定変更を推奨) |
FF14ベンチでも、フルHDの標準画質で「快適」という結果となりました(DirectX 9)。最高品質では、さすがに厳しいようです。
以上のように、画質にこだわらなければ930Mでも意外にゲームを遊べることがわかります。ただし「快適」という評価でもこのスコアであれば、シーンによってはカクついたり重くなるかもしれません。また薄いノートPCで長時間プレーしていると、内部の熱により処理速度が落ちることもある点に注意してください。
このような理由から、息抜きとしてゲームを楽しむ程度にしておいたほうがいいでしょう。本格的にやり込みたい人は、ゲーム用のPCを購入したほうが幸せになれます。
少しでも作業を快適にこなしたい人向け
ということで、今回はGeForce GTX 930Mの性能について、ベンチマーク結果を交えながら解説しました。
正直なところ、このGPUを選ぶべきかどうかは微妙なところだと思います。ゲームをサクサク楽しめるようになるわけではありませんし、ネットや文書作成時のパフォーマンスが大きくアップするわけでもありません。負荷の高い処理において確かに効果はあるものの、パフォーマンスがどの程度アップするのかいまひとつわかりづらく、またその効果を体感できるのかも疑問です。
逆に930M搭載モデルを選ぶことで、「価格が高くなる」「内部が熱くなる」「空冷部品の追加で重くなる」というデメリットが生じるかもしれません。15.6型以上の据え置き用ノートPCなら特に気にならないかもしれませんが、モバイルノートPCにはけっこう致命的ではないかと。
とは言うものの、ないよりはあったほうがパフォーマンスは向上するはずです。少しでもパワーのあるマシンで作業をスピーディーにこなしたい人におすすめします。
なお今回の検証に利用したThinkPad T460sについては、別の記事で詳しくレビューしています。そちらもぜひご覧ください。