インテルのCore i7-10710Uは、2019年8月に発表されたノートPC向けのCPUです。2019年9月以降に発売されたノートPCのうち、高級志向のハイエンド向けノートPCで使われています。基本的には軽量薄型ノートPC中心ですが、今後はゲーミングノートPCやクリエイター向けノートPCでも搭載機種が増えるかもしれません。
Core i7-10710Uのスペック
世代 | 第10世代 |
---|---|
開発コード | Comet Lake |
コア数 / スレッド数 | 6 / 12 |
動作周波数 | 1.10GHz |
最大動作周波数 | 4.70GHz |
TDP | 15W |
内蔵グラフィックス | Intel UHD Graphics |
最大の特徴は、6コア / 12スレッドで動作する点です。薄型ノートPC向けのCore プロセッサUシリーズとしてははじめての6コアCPUで、従来の4コア / 8スレッドを性能面で大きく上回っています。ベンチマークスコアはゲーミングノートPCやクリエイター向けノートPCで使われている6コアのHシリーズに迫るほど。
Core i7-10710Uのベンチマークスコア概要
CPU | PassMark CPU Markスコア |
---|---|
Core i7-9750H |
14833
|
Core i7-10710U |
13685
|
Core i7-8750H |
13244
|
Core i7-1065G7 |
11872
|
Core i7-10510U |
10863
|
Core i5-9300H |
10234
|
Core i7-8565U |
9814
|
※スコアは当サイト計測値の平均
Core i7-10710UはRAW現像などの、高いマルチコア性能を必要とする作業に向いています。ただグラフィックス性能が弱いため、CPU単体でのゲームや動画編集には適していません。しかし外付けGPUと組み合わせることで、高いパフォーマンスを発揮できるポテンシャルを秘めています。
Core i7-10710Uの用途
※ノートPC向けCPUとしての評価
この記事ではこれからノートPCを購入しようとしている方のために、Core i7-10710Uの性能について紹介します。
Core i7-10710U概要
※ここではCPUのやや専門的な内容について解説しています。CPUの背景に興味のない方は読み飛ばしてもOKです。
第10世代Comet Lakeの最上位CPU
インテルのCore i7シリーズは、ノートPC向けCPUのなかでCore i5に次いで人気の高いCPUです。各機種のラインナップなかでも上位モデルで使われることが多く、性能面を重視する人に選ばれています。
Core iプロセッサーの種類
Core i3 (下位) |
計算性能よりも価格の安さを重視 |
---|---|
Core i5 (中位) |
性能と価格のバランスを重視 |
Core i7、i9 (上位) |
とにかく性能重視 |
スタンダードノートPCおよびモバイルノートPCでは2019年前半まで、第8世代 (Whisky Lake)のCore i7-8565Uがよく使われていました。そこから第9世代をすっ飛ばして第10世代に移行したわけですが、ややこしいことに第10世代には開発コード (CPUアーキテクチャ)の異なる3種類が存在します。
第10世代Core i7の種類
開発コード | 概要 | 主なCPU |
---|---|---|
Comet Lake | 従来と同じ14nmプロセスでありながら、パッケージサイズが大幅に小型化 | Core i7-10510U Core i7-10710U |
Ice Lake | 新機軸の10nmプロセスでCPUコアも刷新。機械学習性能やグラフィックス性能を強化 | Core i7-1065G7 |
Amber Lake-Y | ファンレスPCやタブレットPC向けの省電力版。製造プロセスは14nm | Core i7-10510Y |
今回取り上げるCore i7-10710Uは、軽量薄型ノートPC向けのComet Lakeに属します。Comet Lake自体はWhisky Lakeとあまり変わりがなく、あえて言うならば「Whisky Lake Refresh」的な第8世代の改良版といった位置づけです。
しかしCore i7-10710Uの最大の特徴は6コア / 12スレッドで動作する点で、従来の軽量薄型ノートPC向けの「Uシリーズ」では初の6コアです。コアが増えたことでパフォーマンスが大きく向上し、従来のCPUでは実現できなかった超薄型のハイエンドモデルが可能になりました。ノートPCの可能性が大きく広がったわけです。その意味でCore i7-10710Uは時代の節目となる画期的なCPUであると言えるかもしれません。
Core i7-10710UとCore i7-8565Uの違い
Core i7-10710U | Core i7-8565U | |
---|---|---|
発表日 | 2019年8月 | 2018年8月 |
世代 | 第10世代 | 第8世代 |
開発コード | Comet Lake | Whisky Lake |
製造プロセス | 14nm | 14nm |
コア数 / スレッド数 | 6 / 12 | 4 / 8 |
動作周波数 | 1.10GHz | 1.80GHz |
最大動作周波数 | 4.70GHz | 4.60GHz |
キャッシュメモリー | 12MB | 8MB |
TDP | 15W | 15W |
内蔵グラフィックス | Intel UHD Graphics | Intel UHD Graphics 620 |
Core i7-10510UやCore i7-1065G7との違い
2019年後半から2020年にかけて、スタンダードノートPCおよびモバイルノートPCの上位モデルではCore i7-10510U (Comet Lake)とCore i7-1065G7 (Ice Lake)の2種類がよく使われています。これらは4コア / 8スレッドで動作するCPUで、パフォーマンスはCore i7-10710Uよりも低め。しかしそのぶん、Core i7-10710U搭載機種よりも価格が安い傾向にあります。
現時点ではCore i7-10710U搭載機種はまだ少ないのですが、一部ではCore i7-10510Uの上位モデルとしてラインナップされているケースが見られます。Ice LakeとはCPUのサイズやソケットが異なるため、上位モデルで使われることはありません。
Core i7-1065G7やCore i7-10510Uとの違い
Core i7-10710U | Core i7-1065G7 | Core i7-10510U | |
---|---|---|---|
発表日 | 2019年8月 | 2019年8月 | 2019年5月 |
世代 | 第10世代 | ||
開発コード | Comet Lake | Ice Lake | Comet Lake |
製造プロセス | 14nm | 10nm | 14nm |
コア数 / スレッド数 | 6 / 12 | 4 / 8 | 4 / 8 |
動作周波数 | 1.10GHz | 1.30GHz | 1.80GHz |
最大動作周波数 | 4.70GHz | 3.90GHz | 4.90GHz |
キャッシュメモリー | 12MB | 8MB | 8MB |
TDP | 15W | 15W | 15W |
内蔵グラフィックス | Intel UHD Graphics | Intel Iris Plus Graphics | Intel UHD Graphics |
Core i7-10710Uのベンチマーク結果
続いて、当サイトで実施したCPUベンチマークテストの結果を紹介します。なおベンチマーク結果は各機種の平均値であり、Core i7-10710U本来の性能を正確に表わすものではありません。また結果はパーツ構成やタイミング、環境、個体差などにより大きく変わることがあることをあらかじめご了承ください。
一般ノートPC向けCPUとの比較
スタンダードノートPC / モバイルノートPC向けCPUのなかで、Core i7-10710Uはもっとも高性能です。これだけのパフォーマンスであれば、長期間快適に利用できるでしょう。むしろ文書作成やネットの調べものなどの軽めの作業には、若干オーバースペックであると言えるかもしれません。
CPUの性能比較(総合性能)
CPU | PassMark CPU Markスコア |
---|---|
Core i7-10710U |
13685
|
Core i7-1065G7 |
11872
|
Core i5-1035G4 |
11379
|
Core i7-10510U |
10863
|
Core i5-10210U |
9988
|
Core i7-8565U |
9814
|
Core i5-1035G1 |
9164
|
Core i5-8265U |
8593
|
Ryzen 5 3500U |
8447
|
Core i3-8145U |
5549
|
Core i3-10110U |
5534
|
Ryzen 3 3200U |
4609
|
Core i3-7020U |
3769
|
Celeron 4205U |
2026
|
Celeron N4000 |
1553
|
※スコアは当サイト計測値の平均
ゲームや動画編集などに影響するマルチコア性能についても、もっとも高いベンチマークスコアが出ています。しかも下位CPUとの差は、総合性能のベンチマーク結果よりも開きました。薄型ノートPC向けCPUとしては、現時点で最高峰の性能だと言えます。
CPUの性能比較(マルチコア性能)
CPU | CINEBENCH R20 CPUスコア |
---|---|
Core i7-10710U |
2214
|
Core i5-1035G4 |
1649
|
Core i7-1065G7 |
1603
|
Core i7-10510U |
1537
|
Core i7-8565U |
1383
|
Ryzen 5 3500U |
1382
|
Core i5-1035G1 |
1370
|
Core i5-10210U |
1338
|
Core i5-8265U |
1217
|
Core i3-10110U |
950
|
Core i3-8145U |
769
|
Celeron N4000 |
301
|
Celeron 4205U |
293
|
※そのほかのスコアは当サイト計測値の平均
ゲーミングノートPC向けCPUとの比較
ゲーミングノートPCやクリエイター向けノートPCで使われる高性能なHシリーズと比較しても、Core i7-10710Uの性能は見劣りしません。さすがに8コア / 16スレッドのCore i9には及ばないものの、低価格ゲーミングノートPC向けのCore i5-9300Hのスコアは軽々と上回っています。総合性能でもマルチコア性能でも、ハイエンドモデル向けで人気のCore i7-9750Hに迫るほどです。
CPUの性能比較 (総合性能)
CPU | PassMark CPU Markスコア |
---|---|
Core i9-9880H |
18515
|
Core i9-9980HK |
17991
|
Core i7-9750H |
14833
|
Core i7-10710U |
13685
|
Core i7-8750H |
13244
|
Core i5-9300H |
10234
|
※スコアは当サイト計測値の平均
CPUの性能比較 (マルチコア性能)
CPU | CINEBENCH R20 CPUスコア |
---|---|
Core i9-9980HK |
3558
|
Core i9-9880H |
3402
|
Core i7-9750H |
2714
|
Core i7-8750H |
2625
|
Core i7-10710U |
2214
|
Core i5-9300H |
1922
|
※そのほかのスコアは当サイト計測値の平均
デスクトップPC向けCPUとの比較
ゲーミングノートPC向けよりもさらに高性能なデスクトップPC向けCPUと比較すると、Core i7-10710Uの総合性能Core i7クラスと言っていいでしょう。ただしマルチコア性能ではグッと落ちて、Core i5と同等クラスです。
とは言え、デスクトップPC向けのCore i5は相当高性能で、一部のゲーミングPCで使われるほど。Core i7-10710Uとゲーム用のGPUを組み合わせれば、ゲーミングノートPCとしても十分なパフォーマンスを得られると考えられます。
CPUの性能比較(総合性能)
CPU | PassMark CPU Markスコア |
---|---|
Core i9-9900K |
19867
|
Core i7-9700K |
17208
|
Core i7-9700F |
17034
|
Core i7-9700 |
16409
|
Core i7-8700 |
15412
|
Core i7-10510U |
13685
|
Core i7-9700T |
12558
|
Core i5-9400F |
12043
|
Core i5-9400 |
11392
|
Core i5-8400 |
11229
|
Core i3-9100 |
8784
|
Core i3-8100 |
8027
|
※そのほかのスコアは当サイト計測値の平均
CPUの性能比較(マルチコア性能)
CPU | CINEBENCH R20 CPUスコア |
---|---|
Core i9-9900K |
4278
|
Core i7-9700K |
3326
|
Core i7-9700 |
3190
|
Core i7-9700F |
3084
|
Core i7-8700 |
3026
|
Core i7-9700T |
2377
|
Core i5-9400F |
2334
|
Core i5-9400 |
2315
|
Core i7-10510U |
2214
|
Core i3-9100 |
1592
|
※そのほかのスコアは当サイト計測値の平均
Core i7-10710Uのグラフィックス性能
CPU性能は非常に優れているものの、Core i7-10710Uのグラフィックス性能は高くありません。これはCPU内蔵のグラフィックス機能 (iGPU)が、ほかの中位~下位CPUでも使われているIntel UHD Graphicsであるためです。一部のクリエイター向けソフトではGPUによるサポート機能に対応していますが、Core i7-10710Uでは期待しないほうがいいでしょう。
ただしこれは外部GPU非搭載モデルでのこと。GTX / RTXシリーズの外部GPUと組み合わせることでPC全体のグラフィックス性能が大きく向上し、ゲーミングノートPC / クリエイター向けノートPC並みのパフォーマンスを発揮できるはずです。
外部GPUとの性能比較
GPU | 3DMark Fire Strike Graphicsスコア |
---|---|
RTX 2080 |
23762
|
RTX 2080 Max-Q |
20066
|
RTX 2070 |
19807
|
RTX 2070 Max-Q |
17933
|
RTX 2060 |
14945
|
GTX 1660 Ti |
14392
|
GTX 1650 |
8689
|
GTX 1050 |
6008
|
MX250 |
3711
|
UHD (Core i7-10710U) |
1350
|
※そのほかのスコアは当サイト計測値の平均
内蔵GPUとの性能比較
GPU | 3DMark Fire Strike Graphicsスコア |
---|---|
Iris Plus (Core i7) |
2846
|
Radeon Vega 8 (Ryzen 5) |
2344
|
Iris Plus(Core i5) |
2136
|
UHD (Ice Lake Core i5) |
1396
|
UHD (Core i7-10710U) |
1350
|
UHD 620 (Core i7) |
1265
|
UHD (Comet Lake Core i5) |
1263
|
UHD 620 (Core i5) |
1186
|
※そのほかのスコアは当サイト計測値の平均
Core i7-10710Uのゲーム性能
ゲームについてはCPU依存の高い (CPU性能の影響が強い)軽めのゲームであれば快適にプレーできます。タイトルによっては、画質を少し下げる必要があるかもしれません。ドラクエ10やPUBG LITE、PSO2、リーグオブレジェンドなどが該当します。
フォートナイトやFF14など、やや高めのグラフィックス性能を要求する中量級タイトルについては厳しそうです。FF14のテストでは「やや快適」との評価が出ていますが、快適なプレーの目安とされる平均60 FPSを大きく下回っています。解像度をグッと下げればなんとかなるかもしれませんが、基本的には考えないほうが無難です。
さらに処理の重い重量級タイトルについては、外部GPUなしではムリと考えてください。
※テストはフルHDで実施
FF15ベンチ (重量級 / DX11)
画質 | スコア / 評価 |
高品質 | 1441 / 動作困難 |
標準品質 | 2066 / 重い |
軽量品質 | 2678 / やや重い |
※スコアが6000以上で「快適」
FF14ベンチ:漆黒のヴィランズ (中量級 / DX11)
画質 | スコア / 評価 / 平均FPS |
最高品質 | 1152 / 設定変更が必要 / 7 FPS |
高品質 | 1749 / 設定変更を推奨 / 11.3 FPS |
標準品質 | 2524 / やや快適 / 16.6 FPS |
※平均60 FPS以上が快適に遊べる目安
ドラクエXベンチ (超軽量級 / DX9)
画質 | スコア / 評価 |
最高品質 | 5982 / 快適 |
標準品質 | 7648 / とても快適 |
低品質 | 9425 / とても快適 |
極薄ハイエンドノートPCの時代が到来!
ベンチマーク結果をご覧いただければおわかりのとおり、Core i7-10710Uは従来のゲーミングノートPC / クリエイター向けノートPC向けCPUに迫るパフォーマンスです。正直なところ、この結果にはとても驚きました。消費電力の高いHシリーズ (TDP 45W)で高いパフォーマンスを発揮できるのは当たり前のこと。しかしTDP 15Wの省電力タイプであるUシリーズで、(一時的に25Wまで上がるとは言え)Hシリーズ並みの性能が出るのはビックリです。
もっともHシリーズは第10世代においてさらに性能が向上するようですから、従来仕様のゲーミングノートPCについてもパフォーマンスアップされるでしょう。ただそれとは別に、薄型ノートPC向けのMax-QデザインなGTX / RTXシリーズを搭載した超スリム型のゲーミングノートPC / クリエイター向けノートPCが増える気がします。すでにMSIからPrestigeシリーズが発売されていますが、このような超薄型のGPU搭載モデルがさらに登場するのではないでしょうか。
ただ少し気になるのは、CPUからの発熱です。パフォーマンスを下げないためには内部をしっかり冷やす必要があるので、そのノウハウが確立されていないメーカーからの発売は遅れるかもしれません。また発売されたとしても、購入の際には熱や消費電力 (バッテリー駆動時間)についてチェックするべきだと思います。
なお前述しましたが、Core i7-10710Uは軽めの作業中心の人にはコスパが悪いのでおすすめしません。テキスト中心の作業ならCore i5-10210U、ちょっと重めのデータを扱うならCore i7-10510Uでも十分です。
また動画や画像を扱いたいのであれば、グラフィックス性能に優れるCore i7-1065G7搭載ノートPCをおすすめします。プロクオリティーの本格的な作業には向きませんが、フルHDサイズの動画編集やスマホの写真を加工するぐらいなら問題なく利用可能です。
*
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