AppleからiPadシリーズの新モデル「iPad Pro」が発表されました。11月の発売予定で、価格は32GBのWi-Fiモデルが799ドル、128GBのWi-Fiモデルが949ドル、128GBのセルラーモデルが1079ドルとなっています。
主な特徴は、解像度2732×2048ドットの12.9型液晶ディスプレイを搭載している点と、新型64ビットプロセッサ「A9X」を搭載したことで処理能力が大きく向上している点です。さらにオプションとして、iPad Pro専用のキーボードカバー「Smart Keyboard」とスタイラスペン「Apple Pencil」も発売されます。
iPad Proはこれまでの路線とは違い、パソコンのように利用するためのタブレットとして位置付けられているような印象を受けます。そこでWindowsプラットフォームで人気のタブレット「Surface 3」および「Surface 3 Pro」との違いを検証してみました。
iPad ProとSurface 3、Surface Pro 3のスペックを比較
まずは3機種のスペックを比べてみましょう。主な仕様は以下の表のとおりです。
iPad Pro、Surface 3、Surface Pro 3の主なスペック | |||
製品名 | iPad Pro | Surface 3 | Surface Pro 3 |
---|---|---|---|
OS | iOS 9 | Windows8.1 Update 64bit | Windows 10 Pro/Windows8.1 Pro Update 64bit |
CPU | A9X | Atom x7-8700(1.6GHz) | Core i3-4020Y(1.5GHz)/Core i5-4300U(1.9GHz)/Core i7-4650U(1.7GHz) |
メモリ | 非公開 | 2(64GB SSDモデル)/4GB(128GB SSDモデル) | 4GB(64/128GB SSDモデル)/8GB(256/512GB SSDモデル) |
グラフィックス | (CPU内蔵) | Intel HD Graphics (CPU内蔵) | Intel HD Graphics 4200(Core i3)/Intel HD Graphics 4400(Core i5)/Intel HD Graphics 5000(Core i7) |
ストレージ | 32/128GB | 64/128GB SSD | 64/128/256/512GB SSD |
ディスプレイ | 12.9型、2732×2048ドット、アスペクト比4:3 | 10.8型、1920×1280ドット、アスペクト比3:2 | 12型、2160×1440ドット、アスペクト比3:2 |
無線LAN | IEEE802.11a/b/g/n/ac | IEEE802.11a/b/g/n/ac | IEEE802.11a/b/g/n/ac |
LTE対応バンド | バンド1、2、3、4、5、7、8、13、17、18、19、20、25、26、28、29、38、39、40、41 | 国内:バンド1、3、8/海外:バンド1、3、7、8、20 | – |
Bluetooth | Bluetooth 4.2 | Bluetooth 4.0 | Bluetooth 4.0 |
センサー | TouchID、照度、加速度、ジャイロスコープ、気圧計 | 照度、近接、加速度、ジャイロ、電子コンパス、GPS、Assisted GPS、GLONASS | 照度、加速度、ジャイロスコープ、電子コンパス |
Webカメラ | フロント800万画素/リア120万画素 | フロント350万画素/リア800万画素 | フロント500万画素/リア500万画素 |
主なインタフェース | Lightningコネクター、Smart Connector | USB3.0、Mini DisplayPort、MicroUSB(充電用)、microSD対応メモリーカードスロット | USB3.0、Mini DisplayPort、microSD対応メモリーカードスロット |
バッテリ駆動時間 | 10時間(WiFi接続時) | 10時間(動画再生時) | 9時間(WiFi接続時) |
本体サイズ | 幅305.7×奥行き220.6×高さ6.9mm | 幅267×奥行き187×高さ8.7mm | 幅292×奥行き201.3×高さ9.1mm |
重量 | 713g(Wi-Fiモデル)/723g(セルラーモデル) | 641g | 800g |
価格(税別) | 32GB Wi-Fiモデル:799ドル(約9万6000円) 128GB Wi-Fiモデル:949ドル(約11万4000円) 128GB セルラーモデル:(約12万9000円) |
64GBモデル:8万1800円 128GBモデル:9万1800円 |
Core i3モデル:9万1800円 Core i5モデル:11万1800円から Core i7モデル:16万4800円から |
iPad Proは高い?
スペック表をパッと見て気になったのは、iPad Proがかなり高価である点です。もっとも安価な32GBのWi-Fiモデルでも799ドルで、日本円に換算すると約9万6000円となります。円安の影響もあるのでしょうけれども、この値段ならSurfaceかほかのパソコンを買うかな、というのが正直な感想です。
iPad Proのポテンシャルを最大限に引き出すには、ペンとキーボードが必要になると思われます。これはSurface 3/Pro 3についても、同じことが言えるでしょう。そこでペンとキーボードを追加したときの値段を計算したところ、iPad Proは32GBのWi-Fiモデルで約12万8000円、128GBのセルラーモデルで約16万1000円となりました。
ペンとキーボードをセットで購入した場合の価格 | |||
製品名 | iPad Pro(Apple Pencil+Smart Keyboard) | Surface 3(Surfaceペン+Surface 3 タイプカバー) | Surface Pro 3(Surface Pro タイプカバー) |
---|---|---|---|
キーボード+ペンのセット価格 | 32GB Wi-Fiモデル:約12万8000円 128GB Wi-Fiモデル:約14万6000円 128GB セルラーモデル:約16万1000円 |
64GBモデル:10万3460円 128GBモデル:11万3460円 |
Core i3モデル:10万7480円 Core i5モデル:12万7480円から Core i7モデル:18万480円から |
そもそもiOSタブレットとWindowsタブレットは、同じ土俵で比較するべきものではありません。しかしiPad Pro向けにキーボードとペンを用意し、さらにCPUの性能を大きく向上させていることをふまえると、パソコンの代替品として展開するつもりなのでは? と思えるわけです。だとすると、この価格設定は大きなマイナス要因になる気がします。
ちなみに、MacBook Airの価格は11インチモデルが10万2800円から、13インチモデルは11万2800円からで、MacBook Pro 13インチRetinaディスプレイモデルは14万8800円からという価格(すべて税別)で販売されています。個人的にはMacBookでデタッチャブルタイプの2-in-1パソコンであるほうが生産性は高いような気がするのですが、どうでしょうか?
本体サイズはiPad Proが大きい
iPad Proは12.9型の液晶ディスプレイを搭載しているだけあって、本体サイズが大きめです。実サイズを比べてみると、Surface Pro 3よりはひと回り大きく、Surfcae 3よりもふた回り以上大きい印象を受けます。
iPad Proの解像度は2732×2048ドットで、短辺側の解像度がiPad Air 2(解像度2048×1536ドット)の長辺に合うように設計されています。そこからアスペクト比を4:3に合わせたことで、この解像度とサイズになっているのでしょう。大きさは意図的なものですので、フットプリント(接地面積)がある程度大きくなるのは仕方がないと思います。
フットプリントはそれなりですが、高さは6.9mmとかなり薄く作られています。Surface 3との差は1.8mmで、Surface Pro 3とは2.2mmも違います。数値的にはそれほど変わりはありませんが、実際に手に持ってみるとだいぶ違うことがわかるでしょう。もっともSurface Pro 3についてはCPUにCore iシリーズを搭載していますので、排熱の関係から本体にある程度厚みを持たせる必要があります。本体に厚みが出るのはやむを得ません。
重量はSurface 3がもっとも軽く、そのあとにiPad Pro、Surface Pro 3と続きます。液晶ディスプレイのサイズはiPad Proのほうが大きいにも関わらず、Surface Pro 3より軽い点は評価したいポイントです。
CPUの性能は? 冗談半分でベンチマークスコアを予測!
Appleが公開している情報によると、iPad Proが搭載している新型プロセッサー「A9X」は、iPad Air 2(A8X)に比べて1.8倍のCPUパフォーマンスを持つとのことです。さらに初代iPadと比べると、その差は22倍。GPUについてはiPad Air 2の最大2倍のパフォーマンスで、初代iPadの360倍とされています。実際にベンチマーク結果が公開されているわけではありませんので正確なところは不明ですが、さまざまな情報を元に性能を推測してみましょう。単なる数字遊びですので、話半分どころか1/256程度に考えてください。
定番ベンチマークソフト「Geekbench」シリーズのスコアが公開されている「Geekbench Browser」の「iPhone, iPad, and iPod Benchmarks」では、iPad Air 2のスコア(2015年9月10日時点)がシングルコアで「1807」、マルチコアで「4525」とされています。このスコアを単純に1.8倍したものがiPad Proのスコアだとすると、シングルコアは「3252」でマルチコアは「8145」となります。
初代iPadの結果は登録されてなく、iPad 2ではシングルコアが「261」でマルチコアは「492」とのこと。そこでGeekbench 2のスコアからiPadとiPad 2に関して直近100件のスコアの平均値を算出したところ、iPadは「466」でiPad 2は「756」でした。iPad 2のスコアを0.616倍した値が初代iPadのスコアに相当すると仮定して、iPad 2のGeekbench 3スコアから割り出した値がシングルコア「160」マルチコア「303」というスコアになります。
で、先ほど算出したiPad Proの推測スコアと初代iPadの推測スコアを比べてみると、シングルコアで20倍、マルチコアで26倍になりました。22倍ピッタリにはなりませんでしたが、なかなか興味深い値になっているかと思います。
ちなみに、Surface Pro 3の最上位CPUであるCore i7-4650U(1.7GHz)は、Geekbench 3マルチコアの最高点が「6133」です。だからと言ってiPad Proのほうが高性能というわけでは決してないとは思いますが、果たしてiPad Proの実際の性能はどうなのでしょうか。
LTEの対応バンドはiPad Proのほうが多い
iPad Proのセルラーモデルでは、LTE通信が可能です。対応バンドはかなり多く、どのキャリアでも問題なく利用可能です。もちろん、SIMフリーモデルならMVNOのサービスも使えます。
それに対してSurface 3は、国内ではバンド1/3/8にしか対応していません(海外では1/3/7/8/20に対応)。これはSurface 3がワイモバイル(ソフトバンク)の回線に最適化されているためで、NTTドコモやau(KDDI)のSIMカード(MVNOを含む)ではパフォーマンスを最大限に発揮できない可能性があります。LTEバンドについてはiPad Proが優秀というよりも、Surface 3が少なすぎると言っていいでしょう。
インターフェース類はSurfaceシリーズが多い
独自仕様にこだわるAppleの製品は、インターフェースがあまり多くありません。それに対してSurface 3やSurface Pro 3はWindowsパソコンですから、USB端子や映像出力端子、microSDカードスロットなどが用意されています。さまざまな機器を使えるという点では、Surfaceのほうが便利です。特にmicroSDカードを外部ストレージとして利用できる点は大きなメリットだと言えるでしょう。
Smart Keyboardはタイプカバー似?
iPad Proには専用のキーボードカバー「Smart Keyboard」がオプションとして用意されています。パッと見たところ、なんだかSurfaceシリーズのタイプカバーのような印象を受けます。
実際に見比べてみると、「カバーとして使える」点以外に似ているところはあまりありません。カバーを折り曲げてスタンドとして使う点やタッチパッドがない点、キーがアイソレーション式である点、本体の表と裏を保護できる点など、違う部分のほうが目立ちます。またSurface Proタイプカバーがキーボードバックライト付きで厚さ5mmであるのに対し、Smart Keyboardはバックライトなしで4mmとなっています。
キーボード配列を見ると、キーピッチはかなり大きめに取られているものと予想されます。ファンクションキーがありませんが、iOSデバイスには必要ないのでしょう。実際に利用したわけではないのでタイプ感までは(いまのところ)わかりませんが、厚さが4mmなので特別優れているわけでないように思います。このあたりは実際に試してみてから、追記するつもりです。
ただ1点気になるのは、キーボードの傾斜がなくて入力しづらいのではないかという点です。机にベタ置きだと手首に負担がかかりやすく、疲れの原因にもなります。またSurface Pro 3なら本体の角度を無断階に調整できますが(Surface 3は3段階)、Smart Keyboardでは2段階でしかもキー入力用の角度は実質1種類だけのように見受けられます。
実際の使い勝手についてはまだわかりませんが、製品写真を見てのファーストインプレッションとしては、Surfaceシリーズのタイプカバーのほうが使いやすそうさな印象を受けました。
Apple Pencilは駆動時間が短すぎる?
iPad Pro向けのアクセサリーとして、手書き入力用のペン「Apple Pencil」が発表されました。
見たところ、機能豊富で使いやすそうな印象です。特にペンを傾かせると濃淡が変わる点がユニークですね。
ペン尻をLightningポートに挿すことで充電できるギミックは素晴らしいのですが、バッテリーが12時間しか持たないのは残念です。乾電池を使うタイプのデジタイザーペンには数ヵ月持つものがあることを考えれば、駆動時間はかなり短いと言えます。短時間である程度充電できるのはいいのですが、使いたい瞬間に使えないのはデメリットではないかと思います。
一方のSurfaceペンの連続駆動時間は公開されていませんが、筆者が以前試用したときは1週間たっても電池を交換する必要ありませんでした。おそらく2~3ヵ月あるいは数ヵ月はもつのではないかと思います。乾電池を含むとペンが重くなりますが、個人的には多少の重みがあるほうが使いやすいと感じています。またSurfaceペンはアルミの質感がいいですよね。OneNoteが起動するボタンを使うことはほとんどありませんでしたが。
実際のところ、Apple Pencilはどうなんでしょうか? ペンのボディがプラスチックのようにも見えますし、だとすると軽すぎるような気もします。ペンの書き味については問題ないと思われますが、グリップ感や重さが気になります。
iPad Proはガジェットしての魅力はあるが、汎用性ならSurfaceのほうが上
さらにiPad Proは4つのスピーカーを搭載したり、120fpsのスローモーション撮影が可能など、ガジェットとしての魅力は十分にあります。しかし生産性が求められる作業には、やはりSurfaceシリーズを始めとするWindowsパソコンやMacのほうが向いているのではないでしょうか。ソフトや利用可能な周辺機器が多いぶん、パソコンやWindowsタブレットのほうが汎用的に使えます。
また、iPad Proのポテンシャルを最大限に引き出せるアプリが現時点では少ない点も気になるところです。4K動画を編集できるパワーがあっても対応アプリが少ないですし、そもそも内蔵カメラが800万画素なので、4K動画を編集する機会がなかなかありません。性能的にも機能的にもハマる人にはピタッとハマるのでしょうけれども、あまり一般的向けではない気がします。基本性能やギミックなどはとても優れているのですが、万人向けではなく、特定のアプリを使いこなせるスキルを持った上級者向けの端末ではないでしょうか。
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