ASUSから10.1型2-in-1タブレット「TransBook T100 Chi」の新モデル「T100CHI-Z3795」が発表されました。発売日は2016年5月27日で、店頭予想価格は4万9800円(税込み5万3784円)です。
液晶ディスプレイを取り外すことで、タブレットとしても利用できます
新モデルの注目ポイントは、前モデルと比べてメモリー容量が2倍の4GBになった点と、価格が2万円ほど安くなった点です。おそらく実売価格は5万円前後になると予想されます。
2015年2月発売の前モデル「TransBook T100Chi (T100CHI-3775S)」
今回は新モデル「T100CHI-Z3795」と前モデル「T100CHI-3775S」の違いを中心に解説します。
T100CHI-Z3795とT100CHI-3775Sのスペックの違い
まずは新モデルの「T100CHI-Z3795」と、前モデル「T100CHI-3775S」の違いを、スペックから比較してみましょう。それぞれの主な違いは、下記の表のとおりです。
T100CHI-Z3795とT100CHI-3775Sの主なスペック | ||
OS | Windows 10 Home 64ビット | Windows 8.1 with Bing 32ビット |
---|---|---|
CPU | Atom Z3795(1.59GHz) | Atom Z3775(1.46GHz) |
メモリー | LPDDR3-1066 4GB | LPDDR3-1066 2GB |
グラフィックス | Intel HD Graphics(CPU内蔵) | |
ストレージ | 64GB eMMC | |
光学ドライブ | なし | |
ディスプレイ | 10.1型、1,920×1,200ドット、光沢あり、IPS | |
通信機能 | IEEE802.11a/b/g/n対応無線LAN、Bluetooth 4.0 | |
Webカメラ | フロント200万画素、リア500万画素 | |
主なインタフェース | microUSB3.0×1、microUSB×1、microHDMI、microSD/SDHC/SDXC対応メモリーカードスロット、ヘッドホン出力 | |
バッテリ駆動時間(JEITA2.0) | 8.2時間 | 8.7時間 |
本体サイズ | 幅265×奥行き174.5×高さ7.2mm(タブレット)/幅265×奥行き174.5×高さ13.2mm(タブレット+キーボードドック) | |
重量 | 570g(タブレット)/1.08kg(タブレット+キーボードドック) | |
オフィス | Office Mobile | Office Home and Business 2013 |
赤い字で書かれている部分は、新モデルでの変更点です。スペックをご覧いただくとおわかりのように、OSとCPU、メモリー、バッテリー駆動時間、オフィスのほかは、まったく変わっていません。これは筆者の推測ですが、マザーボードや筐体などをそのまま使いまわしているのでしょう。
新モデルが発表されたと聞いてどこが変わったのか楽しみにしていたのですが、正直なところマイナーアップデートでちょっとがっかりです。どうしてガッカリなのか、新モデルの変更点を交えながら解説しましょう。
なぜこのタイミングでBay Trailなのか?
新モデルでは、CPUがAtom Z3775からAtom Z3795に変わりました。タイミング的にはCherry Trail世代のAtom x7-Z8700が採用されてもいいはずですが、あいかわらずのBay Trail世代です。なおそれぞれのCPUの違いについては、以下の表を参考にしてください。
Atom Z3795とAtom Z3775、Atom x7-Z8700の違い | |||
Atom Z3795 | Atom Z3775F | Atom x7-Z8700 | |
---|---|---|---|
開発コード | Bay Trail | Cherry Trail | |
アーキテクチャ | Silvermont | Airmont | |
コア数/スレッド数 | 4/4 | ||
動作周波数 | 1.59GHz | 1.46GHz | 1.6GHz |
バースト周波数 | 2.39GHz | 2.39GHz | 2.4GHz |
SDP | 2W | ||
グラフィックス | Intel HD Graphics(CPU内蔵、第7世代) | Intel HD Graphics(CPU内蔵、第8世代) | |
グラフィックス動作周波数 | 311MHz | 200MHz | |
グラフィックス最大動作周波数 | 778MHz | 778MHz | 600MHz |
実行ユニット数 | 4 | 16 | |
DirectX | 11.0 | 11.1 | |
OpenGL | 3.0 | 4.3 |
上記の表をご覧いただくとわかるように、Atom Z3795とAtom Z3775の違いは定格の動作周波数だけです。さまざまなCPUのベンチマーク結果を掲載する「PassMark CPU Benchmarks」によると、Atom Z3795はAtom Z3775に比べてスコアが38%上回っているとのこと。確かに性能面ではアップグレードしていますが、Atom x7-Z8700を採用していたほうが性能面でもインパクトの面でもよかったのではないかと思います。
各CPUの性能差 ※参考:PassMark CPU Benchmarks
もっとも、製造コストが増える点や、Atom Z3795とAtom x7-Z8700で性能的にはそれほど変わらないことを考えれば、メーカーとしてこの選択は”アリ”なのかもしれません。ただやはり消費者としては、いろいろと思うところがあるんですよね。
メモリー容量2倍で快適さは向上
新モデルでは、4GBのメモリーを搭載しています。前モデルが2GBでしたので、容量は2倍になりました。2GBと4GBでは動作にかなりの違いがあり、特に複数のソフトを起動するような場面では4GBのほうが快適に扱えます。前述のとおりCPU性能もアップしていますので、総合的な快適さはかなり変わっているはずです。
またメモリー容量が増えたことにより、OSの種類も変更されました。前モデルでは3GBまでしか扱えない32ビット版のWindows 8.1 with Bingでしたが、64ビット版のWindows 10 Homeを採用することで4GBの容量をフルに扱えるようになっています。
バッテリー駆動時間は30分減少
新モデルのバッテリー駆動時間は8.2時間で、前モデルに比べて0.5時間短くなっています。と言ってもたかだか30分ですので、それほど大きく異るわけではありません。実際にはほとんど変わらないと考えていいでしょう。微妙に性能が向上していますので、バッテリー容量が変わらなければ駆動時間も微妙に減るのは仕方がありません。
オフィスが商用利用OKから商用利用不可に
前モデルでは、Office Home and Business 2013が付属していました。ひとつ前のバージョンですが機能制限のないデスクトップ版で、ビジネスに利用できます。
しかし新モデルにプリインストールされているOffice Mobileは、デスクトップ版よりも機能が少ないWindows 10版(UWP)のアプリで、無料で入手できるものです。商用では利用できず、仕事で使う場合は別途Office 365サービスのラインセンス(税込み6264円/年)を購入する必要があります。
かつてマイクロソフトは、Windows 8.1を搭載する10インチ以下のタッチデバイスに実質無料でOfficeをバンドルできるようにしていました。そのため、格安なWindows 8.1搭載タブレットのほとんどに、Office Home and Business 2013がプリインストールされていたのです。
Windows 10ではデスクトップ版オフィスの無料バンドルは実施されず、代わりに無料のOffice Mobileをプリインストールしてもよい、という方向に変わりました。一部のWindows 10搭載タブレットで「Office搭載」と謳うものがありますが、10インチ以下の場合はほぼOffice Mobileです。
以上の理由から新モデルではOffice Mobileが搭載されているわけですが、個人的にはデスクトップ版のオフィスからWindows 10版のアプリに変わったことが、新モデルの唯一にして最大のマイナスポイントではないかと思います。10.1型タブレットにオフィスが必要かという話もありますが、使えていたものが使えなくなるのは大きなデメリットです。
Windows 10の無料アップグレード終了に向けた対策では?
前モデルのT100CHI-3775Sは2015年2月に発売されましたが、同時期に12.5型の「TransBook T300Chi」と8.9型の「TransBook T90Chi」もリリースされています。8.9型の「TransBook T90Chi」については、2015年11月にWindows 10モデルへとモデルチェンジしました。
TransBook T300Chi T300CHI-5Y71
TransBook T90Chi T90CHI-3775
TransBook T90Chiが発売から早々にWindows 10モデルに変わったのは、おそらくそれなりに売れたからではないかと思います。ストレージに64GBのeMMCを搭載した上位モデルにはOffice Home and Business 2013が搭載されていたのが、その理由のひとつかもしれません。「TransBook T300Chi」については10~15万円と高価だったこともあり、人気はいまひとつだったように感じます。
T100CHI-3775Sについては、リリース直後の店頭予想価格が8万円前後でした。Office 2013は付属しているものの、オフィス付きクラムシェル型ノートPCが買えるこの値段ではバカ売れとまではいかなかったのかもしれません。
ところが今日、突然Windows 10搭載モデルが発表されました。なぜこのタイミングで、あまりスペックが変わらない新モデルをリリースしたのでしょうか。その理由を考えると、7月29日に終了するWindows 10無償アップグレードのためだと思えてきます。
いまWindows 8.1搭載モデルを購入すれば、まだWindows 10へ無償でアップグレードできるチャンスは残っています。しかしこれから出荷される製品については、ちょっと間に合わないかもしれません。無償アップグレード期間が終わったあとでWindows 8.1搭載モデルが売れるかどうかは、微妙なところでしょう。
ですがWindows 10では、デスクトップ版のオフィスをプリインストールできません。もともと無料のOffice Mobileでは、製品としての訴求力に欠けます。だったら、スペックをちょっとよくした上で値下げしたら売れるんじゃないの? とASUSのなかの人が考えたかどうかは知りませんが、そういう手もあるよねという感じです。裏付けはなく、あくまでも筆者の妄想ですのであしからず。
ということで、今回の新モデルは個人的に微妙な感じがするわけです。ただクアッドコアCPUで4GBのメモリーがあればそれなりに快適に使えるので、薄くてコンパクトな10.1型タブレットが欲しい! という人にはおすすめではないかと。
リンク
ASUS TransBook T100Chi(ASUS Shop)