レノボの『IdeaPad Slim 170 15.6型 (AMD)』(以下、”IdeaPad Slim 170 15.6型”)は、AMDのモバイルRyzen 7020Uシリーズを搭載する15.6インチスタンダードノートPCです。価格は6万円前後からと安く多少の安っぽさはあるものの、コストを抑えたい人に向いています。

IdeaPad Slim 170 15.6型 (AMD)
本体の安っぽさについてはある程度許容できるものの、注意しなければならない点が2点あります。ひとつはディスプレイの映像品質がイマイチである点。ノートPC向けのなかでは低ランクのパネルで、スマホやタブレットと比べるとだいぶ見づらく感じます。

ディスプレイの映像はやや暗くて青みが強め。鮮やかさや見やすさに不満が残りますが、文字中心の作業ならそれほど問題ないかもしれません
もう1点は、CPU(APU)性能が低い点。今回は上位のRyzen 5 7520U搭載モデルを検証したのですが、いま出回っているRyzen 5よりもはるかに非力です。CPU性能的には第11世代Core i5と同等レベルなので普通の作業には使えますが、「Ryzen 5だから強いはず」と考えるのは危険なので注意してください。
この記事では筆者が購入した実機を使って、デザインや性能、実際の使い心地などをレビューします。
スペック
OS | Windows 11 Home |
---|---|
ディスプレイ | 15.6インチ 1920×1080ドット TN 非光沢 220nit 45% NTSC |
CPU | Ryzen 3 7320U(4コア8スレッド) / Ryzen 5 7520U(4コア8スレッド) |
メモリー | 8GB LPDDR5-5500 ※オンボード増設不可 |
ストレージ | 256GB NVMe SSD |
グラフィックス | Radeon 610M ※CPU内蔵 |
通信 | Wi-Fo 6、Bluetooth 5.1 |
インターフェース | USB3.2 Gen1 Type-C(映像出力 / USB PD対応)×1、USB3.2 Gen1×1、USB2.0×1、HDMI、SDメモリーカードスロット、ヘッドフォン出力 / マイク入力 |
セキュリティ | ※生体認証なし |
サイズ / 重量 | 幅360.2mm、奥行き236mm、高さ17.9mm / 約1.58kg |
バッテリー | 約16時間 |
本体デザイン
IdeaPad Slim 170シリーズは価格重視のモデルで、作りは格安ノートPC相当です。ボディは樹脂(プラスチック)製で手触りにやや安っぽさがあるものの、見た目はそれほどでもありません。ただし強度についてはそれなりなので注意してください。

IdeaPad Slim 170 15.6型の外観。本体カラーはサンドとクラウドグレーの2色(写真はサンド)

ボディは樹脂(プラスチック)製。格安~中級クラスのノートPCでよく見られる質感です。それほど安っぽくは見えないものの、樹脂はキズに弱いので注意

15.6インチタイプとしてはスリムでシュッとしたデザイン

ディスプレイを開いた状態

ディスプレイはほぼ180度まで開きますが、パネルの視野角が狭いため、相手に見せるのには向いていません

ディスプレイ上部のカメラはプライバシーシャッター付き。1280×720ドットの写真撮影と、720p 30Hzの動画撮影に対応しています。スペック的には一般的なノートPCと同じレベル

キーボード面。キーはダークグレー

ディスプレイのベゼルは比較的細め。ディスプレイ周りがスッキリとしています

インターフェース構成。Type-Cはデータ通信のみで、USB PDと映像出力には対応していません

電源アダプターは65Wの丸口タイプ。重さは340gでけっこう大きめです

スピーカーは底面部左右に配置。音はややこもり気味で音量は小さめ。聞こえることには聞こえますが、ヘッドホンや外部スピーカーの利用をおすすめします

排気口はこの部分。排気は一度ヒンジに当たるので、ディスプレイに直接は当たりません

底面部は樹脂製。冷却のための吸気口が設置されています
サイズと重量
本体の質感はあまり高くはないものの、15.6インチタイプとしては軽量スリムかつコンパクトです。このサイズのノートPCでよく見られる「ゴツさ」や「野暮ったさ」は感じられません。

本体サイズは幅360.2mm、奥行き236mm

A4ノート(ピンク)とB5ノート(ブルー)とのサイズ比較。B4サイズよりもひと回り大きい程度で、15.6インチタイプとしてはコンパクトです

高さは公称値で17.9mm、実測で18mm(突起部を除く)

底面部のゴム足(突起部)を含めた高さは22mm。設置時には高さが増しますが、それでもスリムな印象です

重さは公称値で約1.58kg、実測では1.608kg。15.6インチタイプとしては軽量ですが、これはボディに樹脂(プラスチック)素材が使われているためです
ディスプレイについて
画面サイズについては、一般的な格安ノートPCと同じです。ただしディスプレイに使われているTNパネルは、一般的なIPSパネルと比べてかなり見づらく感じます。それでも視力のいい人なら問題なく使えますが、視力が弱い人や視力の衰えを感じている人には向いていないかもしれません。

画面サイズは15.6インチで、解像度は1920×1080ドットのフルHD

TNパネルは視野角が狭く、画面の角度を変えると色や明るさが大きく変わる場合があります

色は寒色系で、青みがやや強め。コントラストが低く、映像によっては画面が白っぽく見える場合があります

明るさは公称値で220nit。ノートPC用のディスプレイとしては暗めです。それでも普通に作業できるレベルですが、文字の色が薄く見える場合がありました

暖色系の映像はかなり色味が変わります。ネットの調べ物や文書作成向きです
キーボードについて
キーボードにはクセがあります。人によっては気にならないかもしれませんが、タイプ感にこだわる人は注意してください。たわみや底打ち感も若干感じられるため、特にキーを強く叩く人には不向きです。

キーボードはテンキー付きの日本語配列。バックライトには対応していません

Enterキー周辺のキー配列が窮屈です

特に「¥」キーがかなり小さく作られています。一般的な文書にはあまり影響はありませんが、記号キーを多用するプログラミングでは使いづらいかもしれません

キーを押した瞬間のクリック感と押し込む力は固く手応えはあるものの、ストロークがかなり浅めです。指をあまり上げ下ろしせずに入力するならしっかりとした手応えは感じられますが、打ち下ろすようにして入力する人には途中で止まるように感じるかもしれません

キーピッチはやや狭くわずかに窮屈に感じますが、慣れれば普通に使えるでしょう。タイプ音は軽い力でもカタカタと聞こえますが、うるさくはありません
ベンチマーク結果
試用機のスペック
CPU | Ryzen 5 7520U(4コア/8スレッド、15W) |
---|---|
メモリー | 8GB×1 |
ストレージ | 256GB NVMe SSD |
グラフィックス | Radeon Graphics(Radeon 610M、CPU内蔵) |
※ベンチマークテストはWindows 11の電源プランを「バランス」、電源モードを「最適なパフォーマンス」に設定した上で、標準収録ソフト『Lenovo Vantage』で「電源およびパフォーマンス」を「エクストリーム・パフォーマンス」に設定。さらに電源アダプターを接続した状態で実施しています
※ベンチマーク結果はパーツ構成や環境、タイミング、個体差などさまざまな要因によって大きく変わることがあります
ストレージ性能
ストレージとしては、256GB SSDが使われています。海外の公式スペックによるとPCIe Gen4 x4とのことなのですが、アクセス速度はかなり遅めです。低速なSSDを使うことで、コストを抑えているものと思われます。

256GB SSDのアクセス速度。PCIe Gen4 x4タイプとしては、シーケンシャルアクセスがかなり遅い
CPU性能
CPUとしてはAMDの「Mendocino(メンドシノ)」こと、モバイルRyzen 7020UシリーズのRyzen 3 7320UまたはRyzen 5 7520Uが使われています。今回テストで使ったのは、Ryzen 5 7520Uモデル。CPU名からはなんだか強そうな雰囲気が出ていますが、CPU性能を計測するベンチマークテストでは期待ハズレな結果が出ました。薄型ノートPC向けCPUとしては、下位クラスです。Ryzen 3 7320Uでは、さらに低い結果となるでしょう。
CPUの性能差 (総合性能)
CPU | PassMark 10 CPU Markスコア |
---|---|
Ryzen 7 6800U | 22327 |
Ryzen 7 5825U | 20302 |
Core i7-1260P | 20058 |
Ryzen 5 5625U | 18897 |
Core i5-1240P | 18571 |
Core i7-1255U | 17176 |
Core i5-1235U | 13951 |
Ryzen 5 5500U | 13315 |
Core i7-1165G7 | 11723 |
Core i3-1215U | 11681 |
Core i5-1135G7 | 11249 |
IdeaPad Slim 170(Ryzen 5 7520U) | 10124 |
Ryzen 3 5300U | 9527 |
Core i3-1115G4 | 6750 |
※そのほかのスコアは当サイト計測値の平均
CPUの性能差 (マルチコア性能)
CPU | CINEBENCH R23 CPUスコア |
---|---|
Ryzen 7 6800U | 10183 |
Ryzen 7 5825U | 9740 |
Core i7-1260P | 9254 |
Core i5-1240P | 8928 |
Ryzen 5 5625U | 8267 |
Core i7-1255U | 7819 |
Core i5-1235U | 7708 |
Ryzen 5 5500U | 6779 |
Core i3-1215U | 6216 |
Core i7-1185G7 | 5668 |
Ryzen 3 5300U | 5140 |
IdeaPad Slim 170(Ryzen 5 7520U) | 5029 |
Core i5-1135G7 | 4932 |
Core i7-1165G7 | 4711 |
Core i3-1115G4 | 3378 |
※10分間実行し続けた際の最終スコア。そのほかのスコアは当サイト計測値の平均
CPU性能が低いのは、仕方がないことです。実際のところ軽めの作業では問題なく使えますし、高性能すぎてもムダが生じることもあります。また昔のCPU(第10世代以前)よりも性能が高いことは間違いありません。
しかしRyzen 5 7520Uで問題なのは、強そうな雰囲気を漂わせておきながら実際のところはそうではないという点です。ワンランク上に性能が倍程度のRyzen 5 7530Uがありますが、PCに詳しくない人が「Ryzen 5 7520U」と「Ryzen 5 7530U」の違いをパッと判断できるとは思えません。バッジにいたっては、まったく同じものが使われています。

IdeaPad Slim 170 15.6型に貼られている「Ryzen 5」のバッジ。これでは性能が高いのか低いのかわかりません
この点についてはIdeaPad Slim 170 15.6型のメーカーであるレノボがどうこうという話ではなく、CPUをリリースするAMDの問題です。ただしIdeaPad Slim 170 15.6型を検討する際は「Ryzen 5」の名称にごまかされずに、「CPU性能は低い」という点を意識してください。
グラフィックス性能
グラフィックス周りの処理には、CPU内蔵のグラフィックス機能が使われます。MendocinoのモバイルRyzen 7020Uシリーズでは従来の「Vega」アーキテクチャから改良された「RDNA2」アーキテクチャが使われており、この点についてもパワーアップした印象を受けるでしょう。
しかし実際のところ、グラフィックス性能を計測する3Dベンチマークテストでも期待ハズレな結果でした。RDNA2で性能が上がるどころか、従来のVegaシリーズが使われているCPUよりも低いスコアが出ています。現在の基準で判断すると、内蔵グラフィックスとしては最低レベルです。
GPUの性能差(DirectX 11)
GPU | 3DMark Fire Strike Graphicsスコア |
---|---|
GTX 1650 | 8513 |
Radeon 680M | 7521 |
Iris Xe(Core i7+LPDDR4x) | 4734 |
Iris Xe(Core i5+LPDDR4x) | 4059 |
Iris Xe(Core i7+DDR4) | 3420 |
Radeon (Ryzen 7) | 3384 |
Iris Plus | 2880 |
Radeon (Ryzen 5) | 2652 |
Iris Xe(Core i5+DDR4) | 2474 |
Radeon (Ryzen 3) | 2324 |
IdeaPad Slim 170(Ryzen 5,Radeon 610M) | 1756 |
※そのほかのスコアは当サイト計測値の平均
3Dベンチマークテストのスコアが低いのは、Radeon 610Mにはグラフィックスコアが2基しか内蔵されていないためです。たとえば2世代前のRyzen 3 5300Uにはグラフィックスコアが6基、Ryzen 5 5500Uにはグラフィックスコアが7基内蔵されています。いくら新しいアーキテクチャが使われていようとも、グラフィックスコアが少なければ性能は低いということ。この点も、CPUの違いについて理解している人でないと判断しづらいと思います。
PCを使った作業の快適さ
PCMark10は、PCを使った作業の快適さを計測するベンチマークテストです。一般的な作業を想定しているため、テストでは比較的軽い処理が行なわれています。各テストの傾向としては「Essentials」(一般利用)ではCPUのシングルコア性能やストレージ性能、「Productivity」(ビジネス利用)ではCPUのマルチコア性能とメモリー性能、「Digital Contents Creation」(コンテンツ制作)ではCPUとストレージ、GPU性能が強く影響するようです。
各テストの目標値は上回ったものの、コンテンツ制作のテストではギリギリ超えた程度です。やはりグラフィックス性能の低さが、影響しているのでしょう。ビジネス利用のテストでは比較的優秀な結果が出ています。
PCMark 10ベンチマーク結果
テスト | スコア |
---|---|
Essentials (一般的な利用) 目標値:4100 | 8507 9984 9409 10089 10647 10093 |
Productivity (ビジネス利用) 目標値:4500 | 7386 9266 6968 7094 6968 6759 |
Digital Contents Creation (コンテンツ制作) 目標値:3450 | 3683 5987 5525 4889 5997 6342 |
※スコアの目安はPCMark 10公式サイトによるもの
比較機のスペック(スリムノートPC)
▶IdeaPad Slim 570 | Ryzen 5 5625U / 8GB / Radeon |
---|---|
▶ThinkPad E14 Gen4 | Core i5-1235U / 8GB / UHD |
▶HP ProBook 450 G9 | Core i3-1215 / 8GB / UHD |
▶HP Spectre x360-14 | Core i7-1255U / 16GB / Iris Xe |
▶XPS 13 Plus | Core i7-1260P / 16GB / Iris Xe |
バッテリー駆動時間
バッテリーの駆動時間は約16時間とされています。しかしこれはバッテリーの消費量をグッと抑えた場合の結果。公称値は実際の利用を想定した測定結果ではないため、実際の利用では駆動時間が短くなりがちです。
そこでビジネス作業 (Web閲覧や文書作成、ビデオチャットなど)での駆動時間を計測したところ、開始から12時間53分で休止状態へ移行しました。公称値よりも短い結果ですが、バッテリー消費の大きいテストなので仕方がないでしょう。電源プランや画面の輝度を変更すれば、駆動時間はさらに延びるかもしれません。
ちょっと気になるのは、充電時間が長い点です。レノボのIdeaPad Slim 370iでも同じ症状が見られたので、そういう仕様なのかもしれません。
テスト方法 | バッテリー消費 | 駆動時間 |
---|---|---|
※公称値 | 小 | 約16時間 |
Modern Office (ビジネス作業) | 大 | 12時間53分 |
充電率50%までの時間 | - | 2時間04分 |
満充電になるまでの時間 | - | 3時間19分 |
※テストの条件や計測方法についてはコチラ
メモリーの増設について
IdeaPad Slim 170 15.6型はメモリーがオンボード(マザーボード直付け)のため、増設には対応していません。

IdeaPad Slim 170 15.6型の本体内部。メモリーの増設に必要なメモリースロットが用意されていません

メモリーはマザーボードに直付けで、シルバーのシートで覆われています。SSDはM.2スロットに接続されているので、その気になれば換装できるはずです(手間がかかりますが)
標準では8GBメモリーを搭載していますが、実際にシステムで使えるメモリーは5.7GBしかありません。これはグラフィックス処理用に、2GBをビデオメモリーに割り当てているためです。5.7GBはシステムの容量としてはかなり少なく、実際の使用時にも処理がやや遅く感じることが多々ありました。

アイドル時におけるIdeaPad Slim 170 15.6型のメモリー使用状況。容量のうち2GBがVRAMに割り当てられているため、システムが使える容量は全部で5.7GBしかありません
そこでUEFI(BIOS設定)の「UMA Frame Buffer Size」を512MBに変更したところ、システムで使える容量が7.2GBに増えました。各種ベンチマークテストを行なったところスコアは標準時よりもやや下がっていますが、体感速度は向上しています。処理が遅いと感じたら、設定を変更するといいかもしれません。

UEFIの「Configuration」で「UMA Frame Buffer Size」を「512M」に変更。その結果ベンチマークスコアは低下しましたが、体感的には処理が軽くなった気がします
CPUの性能差 (総合性能)
CPU | PassMark 10 CPU Markスコア |
---|---|
IdeaPad Slim 170(設定変更前) | 10124 |
IdeaPad Slim 170(設定変更前) | 9946 |
購入には十分な確認が必要
冒頭でも述べましたが、最大の欠点はディスプレイの見づらさとCPU性能の低さです。ただしそれでも使えないわけではないので、ちゃんと理解しているなら購入はアリだと思います。オフィスを使った文書作成程度なら、問題なく使えるでしょう。
危険なのは「そこそこ高いから高性能なはず」「Ryzen 5だから強いはず」「販売ページの写真がキレイだから、ディスプレイは見やすいはず」と勘違いしてしまうこと。この機種には勘違いしやすいポイントがいくつもあるので、そのあたりを見落とさないようにしてください。

性能と品質を十分理解して購入するならアリ
個人的にはRyzen 3モデルで5万円切り、Ryzen 5モデルで5万円台前半あたりが性能 / 品質面で適正価格ではないかと思います。この目安以下ならお得ですが、そうでないなら別の機種を選んだほうが満足度は高いでしょう。
ちなみにレノボからはCeleron N4120を搭載した『IdeaPad Slim 170i 15.6型』という機種も販売されています。こちらはさらに性能が低いので、近づかないほうが無難です。
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